映画『はじまりのうた』
2007年に公開された『ONCE ダブリンの街角で』は大好きな映画の1つです。ですので、同監督によるこの映画を楽しみにしていました。製作費はわずか15万ドル、全米公開スタート時は5館での上映だったのが、クチコミで1300館になったというお墨付きです。
ミュージシャンの恋人デイヴ(アダム・レヴィーン)に付いて、NYに来たシンガーソングライターの主人公グレタ(キーラ・ナイトレイ)。デイヴの浮気が発覚(こんなことで彼の心変わりが分かってしまうのか、女ってすごいわね、と妙に感心しました)して、部屋を飛び出したグレタは売れないミュージシャンの旧友のアパートに居候し、彼の勧めでバーで1曲歌うことになります。
そこでは、自分が立ち上げたレコード会社からクビを言い渡されたばかりの音楽プロデューサー、ダン(マーク・ラファロ)が自棄酒を飲んでいました。グレタとダンが出会い、デビューの話が持ち上がります。録音はスタジオではなく、NYの街角だったり地下鉄のホームだったりするんですが、愛すべき音楽バカ(尊敬を込めて)が集まって、それはもう楽しそうな風景が広がります。
CGもアクションもドラマチックな事件も、劇的なオチもないのですが監督のこだわりの詰まった温かい作品です。グレタのファッションも良かった、もともとK・ナイトレイが映画の中で見せるファッションが好きでしたが、今回も彼女らしい自然体のそれが、作品のアナログ感にびったりフィットしていました。また彼女の素人っぽさは残るけれど透明感のある歌声も素敵でした。
冒頭、NYのアパートに向う車の中でのデイヴとグレタのシーンで、凡庸にさせ見えたデイヴですが、この人がいったん歌いだすと、急にカラフルなオーラに包まれ、ただものじゃないと気付かせてくれます。最後のライブのシーンは圧巻でした。私、知らなかったのですが、有名なバンドMaroon 5のボーカルの人だったんですね。帰ってからしっかりYouTubeでチェックし、早速CD『V』を借りてきました!
女優のキーラはこの作品で初めて歌を披露しましたし、ミュージシャンのアダム・レヴィーンは演技をして映画デビューを果たしたわけです。この二人が作品の中で上手い具合いに融合されて刺激にもなり、それが成功していたのではないでしょうか。
もちろん、人生のどん底から音楽の情熱を取り戻すダンを演じたマークの存在感も忘れてはなりません。『ノーマル・ハート』でも魅せてくれたように、不器用なんだけどぶれないおじさんを演じたらこの人の右に出る人はいないのでは、と思ってしまうほどです。10年くらい前にラブコメで彼を見たときは、ハンサムな人だなという印象しかありませんでしたが、その後コンスタントにいい仕事をして、俳優として円熟味を増してきました。アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた映画『フォックスキャッチャー』も楽しみです。
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