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小説『瘢痕』トマス・エンゲル

ノルウェーで今注目されているというトマス・エンゲルの小説で、舞台はオスロです。オスロというと、ジョー・ネスボのハリー・ホーレシリーズが思い浮かびますが、その面白さは負けず劣らず、読み出したらとまらなくなりました。

主人公ヘニング・ユールはネット新聞の記者で、2年前に火事で息子を失い、その際にやけどの瘢痕が残ってしまいました。2年の療養生活を終え、心身ともに傷を残したまま仕事に復帰したその日、凄惨な殺人事件が起きます。彼は事件を担当することになりますが、パートナーを組むことになるのは(彼が今も愛している)元妻の現在の恋人となり複雑な心境です。

職場では彼が不在の間、様々な変化が起きていて、なんとか対処しようとし葛藤する様子が痛いほど伝わってきます。「新米記者に戻ったような気分。というかある種の犠牲者、みんなに助けられ、背中を支えてもらわなくてはならない哀れな人間の役柄を与えられて、テレビ・ドラマに出演しているような気分。」そしてそのドラマはうまくいかないとヘニングは思います。

ヘニングの周囲にいる人物像は、彼の目を通しフィルタリングされて伝わるので、読んでいる私も彼と同じ目線になりますし、事件に対しても彼と共に解決に近づいているような錯覚を覚えます。が、その一方で作者は、人はそんなに簡単ではなくもっと多面的だし、事件はもっと複雑なんだと書くのです。なので、主人公に共鳴しつつも、客観的に見ることもできるという、2つの視点で楽しめます。

事件はいくつもの要素が絡みあい、意外な方向へと進みます。事件は解決しますが、6ティエルメス7というハンドルネームを持つ彼の情報源は何者なのか気になります。ヘニング・ユールを主人公にした小説は全6作のシリーズものになっているらしいので、次回が待ち遠しいです。

瘢痕(はんこん) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

瘢痕(はんこん) (ハヤカワ・ミステリ文庫)