『ブエノスアイレスに消えた』グスタボ マラホビッチ
私にとって初のアルゼンチン・ミステリ小説です。この手の本では珍しくKindle版(どうでも良いんですけれど、近視・遠視・乱視の私のとってKindleはありがたいツールです)が、すぐに出たので嬉しくなって購入しました。この本は、結構ボリューミーなんですが、読みやすかったせいもあってあっという間に読了しました。お隣チリの『ネルーダ事件』も良かったし、南米小説もこれから要チェックですね。
主人公は建築家のファビアン、ある日娘のモーラがベビーシッターと出かけたきり戻ってこなかったことから、彼の生活は一転します。警察の捜査はなかなか進まず迷宮入りかと思えたこの事件は、意外な結末を迎えることになります。
と書くと簡単なんですが、なんと物語は約10年という長い歳月にわたります。読み始めた途端、何やら不穏な空気がいたるところに立ち込めてきて不安でいっぱいになります。イヤな予感しかしません。そして、その予感はまんまと的中してしまい、ファビアンは焦燥感と喪失感、そして時間が経過するほどに無力感に打ちのめされてゆきます。
読んでいる途中、目が釘付けになってしまうような比喩表現がよく出てきます。それが巻末にも書いてあって、やっぱりそうだよね!と変なところで共感しました。たとえばこんな感じです。
まぶたの下で眼球が異常なほど激しく動いているのがわかる。まるで、小さな虫たちが外に出ようと必死にもがいているかのように。
不安定になった妻が寝ながら叫び声があげた後、心配になったファビアンが彼女の顔をのぞきこんで、こう思うのです。映像がリアルに浮かんで怖くなってきませんか。