映画『ブリッジ・オブ・スパイ』
スピルバーグは『ジョーズ』や『ジュラシック・パーク』のような娯楽大作を撮る一方で、『シンドラーのリスト』や『リンカーン』のような地味だけど重厚な映画も数多く撮ってきました。私はどちらの作品も、まぁまぁ見ていると思うのですが、スピルバーグ&トム・ハンクスの組み合わせの映画を見るのはこれが初めてです。
ストーリーは東西冷戦下の1960年に実際に起きたソ連によるアメリカ偵察機撃墜事件がベースになっています。ソ連に拉致されたパイロットと、アメリカで逮捕されたソ連のスパイを交換するというものです。その交渉役を半ば強制的に任されたのが弁護士ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)でした。
人質交換の舞台は東ドイツです。今まさにベルリンの壁が作られている様子がリアルに描かれていて驚きました。そして、ホテルの部屋で吐く息の白さ、とまらない鼻水、ブルーグレーの街並みがどこまでも冷たく寒く感じられました。
ソ連のスパイ、アベル役はマーク・ライランスが演じています。今までのスタイリッシュなスパイのイメージとはだいぶかけ離れた風貌です。先日、彼が主演した英国ドラマ『ウルフ・ホール』を見たばかりです。こちらはヘンリー8世の側近、策士トマス・クロムウェル役で、その話し方や声が印象に残りました。なので映画を見ているときはアベルとクロムウェルがダブりました。
ドノヴァンが彼に「怖くないのか」と尋ねると、アベルは決まって「Would it help?(怖がることは何か役に立つのか)」と答えます。彼はこの仕事を始めるときには覚悟を決めていたようにみえました。
このやりとりはコーエン兄弟が追加した台詞なのかしら、などと想像してニンマリしました。
無事家に戻ったドノヴァンは翌朝、いつものように出勤のため列車に乗り込みます。彼は車窓越しに、フェンスを乗り越えて遊ぶ子どもたちを偶然目にします。その時彼は思い出すのですーベルリンで見た悲惨な光景を。
このエンディングは深い余韻を残しました。見てよかったです。